軟部外科
口鼻瘻管
口鼻瘻管(こうびろうかん)は、口の中と鼻の中(鼻腔)がつながる通り道ができることで、主な原因として重度の歯周病や根尖膿瘍が考えられます。
一番多い原因となる歯は、上顎の犬歯です。歯石がたくさん付いた犬歯が、歯周炎を起こしたり、根元の部分の炎症が広がって、口の中と鼻腔と交通するようになります。
症状は頻繁に起こるくしゃみや、歯が抜けて大きな穴ができた場合は、食物が入り込み症状の悪化や悪臭を伴う鼻水を出すようになることもあります。
治療は、動揺している口鼻瘻管の原因となる歯を抜歯し、歯肉の粘膜フラップを作成し、瘻管を閉鎖します。
症例は、17歳のミニチュアダックスフンドです。重度の歯石の付着と右鼻からくしゃみや黄色い鼻水が常に出ていました。青い矢印が、犬歯を抜いた後の口鼻瘻管です。
術後、これらの症状は改善されました。術後33日目の口の中の粘膜フラップの状態も良好です。
気管虚脱
胆嚢粘液嚢腫
胆嚢粘液嚢腫(たんのうねんえきのうしゅ)は、胆嚢内に粘液状の物質がたまって胆嚢が拡張する病気です。
初期は通常無症状のことが多いのですが、進行すると胆嚢炎や胆嚢壊死を合併して、胆嚢破裂をすることもあります。
当院でもここ数年、肝臓の病気を診ることが多くなり、胆嚢摘出を行うことが増えています。
水腎症
水腎症は、腎臓でつくられた尿が尿管を通って膀胱に流れるのが、何らかの原因でスムーズに膀胱に流れにくくなり、腎臓に尿がたまって拡張する病気です。
このワンちゃんは両側の水腎症で、片方はすでに機能していないため、手術で摘出しています。
症状の軽かった右の腎臓も、超音波検査で拡張してきたのが確認されたため、造影検査を行いました。
通常なら,血管から造影剤を入れると数分で膀胱に造影剤が移動しますが、このワンちゃんは1時間たってもわずかしか膀胱に造影剤が移動しませんでした。
造影2時間後、やっと膀胱が造影されました。
レントゲン写真では、太くなって蛇行した尿管が認められます。
手術は膀胱壁にパンチ生検を行い、その穴に尿管をひきこみ縫合します。
術後経過は、腎機能、尿の流れも良好です。
直腸穿孔
直腸は便を形成する下部の消化器の部位です。
この部位が穿孔(穴が開くこと)することはそれほど多くありませんが、主な原因としては腫瘍や異物によるものが考えられます。
この症例はもともと便秘がちだったようで、レントゲン検査で
巨大な糞塊 (赤い矢印) を確認しました。
元気・食欲も消失した状態での来院でしたが、開腹手術を行い、
拡張した直腸から糞塊を摘出しました。
手術中の写真ですが、ピンクの矢印が直腸の穿孔部位になります。
壊死した直腸の一部を切除し、直腸を修復しました。
術後1カ月後のレントゲン写真では、正常な大きさの便が確認できました。
子宮蓄膿症
避妊手術をしていない中高齢のメスにおこることが多い病気で、子宮に膿がたまる病気です。
通常、発情後1~3カ月後ぐらいにおこり、初期症状は多飲多尿がみられ、その後嘔吐をしたり、陰部から排膿がみられることもあります。
治療は内科的な方法もありますが、一般には手術で卵巣・子宮を摘出することになります。
巨大結腸症
この病気はネコに比較的多く見られる病気で、頑固な便秘と腸の拡張がみられます。
内科的な治療に反応しない場合は、手術で広がった腸を取り除きます。
左の写真の青い矢印のところは太くなった腸で、たくさんの固い便がたまっています。
膀胱結石
人の食物を与えたり、不適切なおやつを与えることによって膀胱内に結石ができることがあります。
結石によって頻尿や血尿がみられることが多いです。
レントゲンで確認できるサイズの結石は、内科で治療することは難しく、外科的に摘出することが必要です。
消化管間質腫瘍(GIST)
犬のGISTは盲腸での発生が多く、粘膜下織~筋層に発生します。粘膜が原発の腫瘍ではないので、症状が早期に現れないこともあり、腫瘤が大きくなってから発見されるということもよくあります。
症例は ラブラドルレトリバー 15歳4カ月 避妊メス
健康診断を目的に来院され、超音波検査にて腹部に63mmx50mmの腫瘤が認められました。
高齢の大型犬ですが、元気・食欲もあり、各種検査にて麻酔をするにあたって大きな問題も無いため、腫瘤の摘出を行いました。
腸の腺癌
腸の癌の一種で、慢性の消化器症状(嘔吐・下痢)や体重の減少を伴うことが多くあります。
診断は、レントゲン、特に超音波検査が有用です。確定診断は、病理組織検査が必要になります。
腺癌は腸の壁が肥厚し、内腔が狭くなり食物の通過障害を起こします。
早期に発見したり、悪性度が低い場合には、外科手術で完治することもあります。
そけいヘルニア
太ももの付け根の少し上の部分を鼠径部(そけいぶ)と呼びます。
ここから、腸や腹腔内の臓器が皮膚の下に出てくる病気が、そけいヘルニアです。
症例は、M.ダックスフンド 17歳10カ月 避妊メス
下腹部が急に大きくなったとの主訴で来院。検査の結果、そけいヘルニアでその内容物は腸でした。
超音波検査では、蠕動運動の低下と腸の内腔の拡張が認められました。
嵌頓(かんとん)ヘルニアを疑い、開腹手術を行いました。
腸がそけい部で絞扼され、血流も遮断され、腸の表面の色が紫色に変色していました。
そけい部を広げ、温ためた生理的食塩水で洗浄を繰り返したところ、腸の色調が改善しました。
手術までの時間が早かったこともあり、腸を切除しなくて済みました。